東京高等裁判所 昭和27年(う)306号 判決 1952年7月03日
控訴人 被告人 末木俊治
弁護人 小西伝七
検察官 伊東勝関与
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金千円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
但し、この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
窃盗の点については被告人は無罪。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人小西伝七作成名義の控訴趣意書記載のとおりである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。
控訴趣意第二点について。
原判示田島きみよ及び田島義雄に対する本件浴場の転貸が、所有者たる被告人の承諾なしに行われたこと並びに原判示第二の所為が行われた当時同湯屋営業につき県知事の許可を受けていたものが被告人であつて田島きみよでも田島義雄でもないことは、所論のとおりこれを認めるに難くないが、一方記録に徴すると、右田島きみよ及び田島義雄は原判示のとおりの事情により、右原判示第二の所為が行われた時までに事実上平穏且公然に右浴場を占拠してその湯屋営業を継続して来ていたものであることを肯認するのに十分である。そして刑法業務妨害罪により保護せられる法益は事実上平穏に行われている一定の業務であつて、その業務の開始される原因となつた契約が民法上有効であることや、その業務に関する行政上の許可が存在することの如きは必ずしもその業務ということの要件ではないと解するのを相当とするから、前記田島きみよ及び田島義雄の右湯屋業務も刑法第二百三十三条、第二百三十四条にいわゆる業務というのに該当するものと認むべきである。もとよりかかる場合、右田島きみよ及び田島義雄の浴場の賃借権は被告人に対抗することができないから、被告人は右田島きみよ及び田島義雄に対し同浴場の明渡請求権を持つていることは論をまたないが、その権利の実現は国家機関の力に依拠して手続を守つて行うべきであつて、本件の如く個人自ら権利の救済を実力に訴え実現しようとすることは許されないものといわねばならない。即ち被告人に対し業務妨害の事実を認定処断した原審の措置に所論のような違法の点はない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 藤嶋利郎 判事 飯田一郎 判事 井波七郎)
弁護人の控訴趣意
第二点業務妨害罪に付て按ずるに、五十里庄右衛門の訴訟代理人青柳孝は、浴場引渡証明書によつて被告人に浴場及び諸施設を引渡すと共に、被告人をして五十里に代つて公衆浴場営業の許可を得させるための手続として、五十里庄右衛門は廃業届出をしたことは、原審援用の証人依田幸平及び青柳季の各供述によつて明かである従つて需後五十里及び右田島等に浴場営業権のないこと、並びに浴場と之に附随する諸施設に対し占有権がないことは前述のとおりで、業務の妨害とならない。
(その他の控訴趣意は省略する。)